朱黒しゅこく伝記〜居城の夜明け〜


*プロローグ*

妖魔ようまは出現するが崑崙鏡は今日も比較的ひかくてき平和です。
ある一部の人達の心境を除いては・・・。

机の上に一枚の書簡しょかんを広げ、凝視ぎょうししている人物が一人いた。
崑崙鏡商工会、朱雀支部の代表者だ。

彼女の名は朱玉しゅぎょく。種族は天人。
性格は通常生活にいては温厚だが戦闘にいたっては猪突猛進ちょとつもうしんであった。
顔立ちは天人なので言うまでも無く美形だ。
が、その整った顔の眉間みけんにシワを寄せて書簡しょかん凝視ぎょうししている。

側に立っている自分の片腕に彼女は問うた。

「これは・・・なんだと思う?」

「見ての通りだと思いますけど?」

「・・・・・そもそも、東西に分断ぶんだんしたら中央じゃないんじゃ」

こまかいことは気にしないほうがいいですよ」

彼の名は藍秀らんしゅうと言う。褐色かっしょくの肌を持った文武にけた修羅だ。
彼が書簡しょかんに目を落とすと次の様に記されていた。

*―――――――――――――――――――――――――*
 下記材料をそろえ、東西に中央支部を建設せよ。
 ちなみに下記の数量は支部一つ分である。

 @花梨・楠・杉・松・檜 各300ヶ

 A月桂樹・銅・鉄・錫・水晶・羽毛・豚油・絹糸・牛革

  鬣・椎茸・小麦粉・茶葉・米 各200ヶ

 B赤晶石・青晶石・緑晶石・紫晶石・白晶石 各100ヶ

 C費用500k

 by.鏡王一同
*―――――――――――――――――――――――――*

『鏡王一同』・・・その響きに彼女らはさらにまゆを寄せる。
朱玉しゅぎょくを含め多くの者達は彼らが持ち込む依頼は極力避きょくりょくさけたいと思っていたからだ。
何故なら、面倒めんどうな事にしかならないからである。
そして、今回もかなり面倒めんどうな依頼である事は明白だ。

その頃、青龍支部・白虎支部でも同様にまゆを寄せる者達がいた。
二つの支部の代表者達だ。

(何でまた・・・この時期じきに、この内容なんだろう・・・)

そう、三支部の代表者の心境は皆一つだった。
彼らは確かに中央支部の建設を計画していた。

いまだにとざされた玄武守護地区へ、新たな交易こうえきを求める為に
基礎固きそがためとして中央支部を作ろうとしていたのである。
しかし、鏡王の古株達ふるかぶたちが出てくると面倒なので隠密おんみつに動いた。

動いていた・・・はずだった。
どこからぎ付けたのか同日同時刻ぴったりに各支部にこの内容の書簡しょかんが届けられた。
つまり、この内容をクリアしなければ建設はさせないと云う事だ。

(しかも、発見されてない材料まで含まれてるし)

ちょっと除者のけものにされた鏡王達からの些細ささい抵抗ていこう・・・些細ささい抵抗ていこう
些細ささい抵抗ていこうどころか無理難題むりなんだいである。
お年寄り(?)は大切にしないと後が恐いのであった。

「まったく、おじじ達は何を考えているんだか」

朱玉しゅぎょくがため息を一つ零した。崑崙世界はいまだに未開みかいの地が多い。
それに加え妖魔ようまとの抗争こうそうも続いている。
材料を集めるのも一苦労ひとくろうと言うものだ。
なのに、書簡しょかんには発見すらされていない材料の名が記してある。

「早い話、ついでだから新天地しんてんち開拓かいたくしろって事なんじゃないですかね?」

藍秀が口を開いた。

藍秀らんしゅう・・・簡単に言うけど開拓かいたくしながらって相当難そうとうむずかしいよ」

「そうですね。
 でも、現在確認されている材料だけで中央支部を建設するのも難しいですよ。
 実際に中央支部は崑崙鏡の中枢機関ちゅうすうきかんに発展しうる存在です。
 その建物を建設するのに現存する材料だけでは弱すぎると思いますが。」


「うっ、そ、それは確かに気になってた事だけど・・・」

そう、藍秀らんしゅうが指摘する事は朱玉しゅぎょくをはじめ、各支部の代表者が危惧きぐしていた事だ。
現存する材料だけでは丈夫な建物は建設できない。

崑崙鏡全土の品々が集められ取引される中央支部は部屋から倉庫まで
相当数の室数をほこる事となり建物は老朽化ろうきゅうかや湿気等、様々な要素に
打ち勝てるほどの丈夫さを持たなければ成らないのである。

そうなると現在確認されている家具や装飾そうしょくで使用されている材料だけでは
力不足と言うことになるのだ。
つまり現在の崑崙鏡には主材料として使える丈夫な材料が不足している。
未だ未開の地が多い事が所以ゆえんであるのだが・・・。

「ねぇ、藍秀らんしゅう、難しいけど頑張るしかないのかな?崑崙鏡の更なる発展の為に」

「そうですね。我々、商工会の目的はこの世界の永遠なる発展と繁栄はんえいですから
 その為に物流ぶつりゅう円滑化えんかつを進めているのですし、多少の困難こんなんは付き物だと思います」


「その点では、おじじ達が一枚上手だよね。さすが長く生きてるだけあるよ」

朱玉しゅぎょく、どうしますか? 他の支部にも同内容の書簡が届いてると思うのですが」


多分、届いているだろう。いや、、、確実に届いてる。
朱玉しゅぎょくは筆を手に持った。筆先にすみを着けて新しい真っ白な用紙に筆を走らせる。

*―――――――――――――――――――――――――*
 各支部代表へ

 諸侯しょこうらにも鏡王様から書簡しょかんが届いていると思います。
 簡潔かんけつに・・・対策会議を開きたいので明日、
 長陽城 流派部屋敷地内・第三会議室にお集まり下さい。

 朱雀支部代表 朱玉しゅぎょく
*―――――――――――――――――――――――――*

本当に用件だけを朱玉しゅぎょくは書いた。
その用紙を藍秀らんしゅうに手渡し

藍秀らんしゅう、悪いけどこの手紙をポストマンまで届けさせてくれる?」

承知致しょうちいたしました」

藍秀らんしゅうは手紙を受け取ると部屋を後にした。

朱玉しゅぎょくは深く椅子に持たれかかり窓から見える景色を見た。
どこまでも続く青い空に、豊かに水をたたえた深い湖と緑の葉をたくわえた古い大樹の森。
自然に囲まれた深い森の奥に商工会・朱雀支部がある。
向かいには建木寺院を見ることができる。


各支部の代表に朱玉しゅぎょくからの手紙が届いたのはその日の夕刻だった。
その知らせを受けた朱玉しゅぎょくは長陽城に向けて出発の準備を始める。

「明日が楽しみだな・・・さて、久々に会う彼らは元気だろうか」

昔のなつかしい記憶に思いを馳せながら、朱玉は豊かな自然をばがつぶやいた。
湖には綺麗な夕日が映り、徐々に静かなる夜へと映り込む姿を変えていった。


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