朱黒伝記〜居城の夜明け〜
*第一章 動き出した歯車A*
崑崙鏡には守護地区と言うものがある。
鏡王達が管理する長陽城・北区・南区・青海盆地・玄火山脈の中央守護地区。
青龍一門が管理する百草平地・東海平原の青龍守護地区。
白虎一門が管理する銅角山・龍棲山の白虎守護地区。
朱玉がいる朱雀一門が管理する雲夢平原・建木の林の朱雀守護地区。
中継都市としてヴァルナの谷と広霊に街がある。
そして、未だに鎖された玄武一門の玄武守護地区。
そこには現在確認されていない上級材料があるはずとされている。
青龍・朱雀・白虎の地区でも新たな新天地は見つかりつつあるが、
まだ足を踏み入れる段階ではない。
主材料が不足しているから探索まで踏み込める備品がないのだ。
その改善の為に玄武地区との交易が重要となってくる。
極稀に玄武地区から生還する冒険者がいる。
彼らが手にした品々は最上級の代物が多く、それが一層の期待を煽るのだ。
池に蓮の葉を浮かべた中庭を囲む様に回廊があり、各流派部屋に繋がっている。
それが長陽城の北西にある流派部屋地区だ。
朱玉は回廊を歩き、会議室へ向かっていた。
会議室からは既に笑い声と怒鳴る声が聞こえている。
「みんな元気そうだね」
扉を開けて朱玉が声をかけた。
中にいた人物達は声の主へと視線を向ける。
青龍支部の代表・人族の蒼鬼、白虎支部の代表・鏡童の桃華、そして鏡王イエンマオ。
「朱玉ちゃん♪お久しぶり〜v」
さっきまで怒鳴っていたと思われる桃華が語尾にハートを飛ばして朱玉に話しかける。
「桃ちゃん久しぶりだね。元気だった?」
「うん、元気だよ!毎日がすぅ〜ごっく充実してるのぉ〜♪」
「充実してるのは桃だけだー!!週に最低1回は押しかけやがって!」
蒼鬼が怒鳴る。桃華は傍から見ても丸解りなのだが蒼鬼が大好きなのだ。
昔から追っかけている。何だかんだ言い合っていても結構仲がいい。
そのやり取りを見てイエンマオが爆笑している。
懐かしいやり取りに朱玉の顔も緩む。
「ところでマオ先生は呼んでないと思うけど、どっから嗅ぎ付けたの?」
朱玉はイエンマオの事をマオ先生と呼ぶ。
何故そうなっているかは別の機会に。
「別に良いじゃないですか、依頼を出したのは我々なんですから」
微笑んで答えたがその表情の裏に別の意図がある。
彼が微笑んで話を濁す時は大抵そうなのだ。
「・・・用件は別にあるみたいですね。まぁ、それは後ほど」
「相変わらず察しが良いですね」
「お褒めに預かり光栄です、マオ先生」
「ところで朱玉ちゃん、やっぱり探査は私達で行くの?」
怒鳴り合い=夫婦漫才に飽きた桃華が話しに入ってくる。
その桃華を『何だよ』と云った感じに蒼鬼が見ながら茶器に湯を注ぎだした。
テーブルに茶を注いだ碗を並べて蒼鬼は席に着く。
「うん、やっぱりマオ先生達からの依頼は普通の冒険者じゃ荷が重いと思うんだよね」
「でもさぁ〜朱玉、俺達三人だけだと街中での通常生活が・・・」
彼らは冒険者として生活が長い為に野営や狩には慣れている。
だが、街や村等の人里での生活は未だに不慣れなのだ。
普段は人里での手続き等は常に彼らの片腕、つまり副長達がこなすのであった。
まして新天地での交渉は困難を極める。
基本的に三人とも力押しが得意なのだ。
過去に旅をしていた時は、もう一人仲間がいた。
それらの事は『彼』がこなしていたので問題なかったのだ。
しかし、今、『彼』はいない。
「私達だけじゃ無理なのは百も承知。マオ先生が・・・」
「私は行きませんよ」
「知っている。言ってみただけだから」
「そうですか?」
そういって茶を口にするイエンマオ。
朱玉はそれを横目に一つの提案をする。
「副長の同行はどうだろうか?その穴は補充要員で埋めてって事で」
「朱玉ちゃん、二人とも連れいっていいの?」
「どう考えても二人は無理だろう。普通に考えればどちらかだ・・・
が、どちらにしても補充要員は必要じゃないか?」
蒼鬼が口を挟む。蒼鬼と朱玉は6人旅団、各代表と副長各1名が妥当と判断した。
「補充要員については既に蛇北が動いているはずだから問題ない」
「本当に朱玉のところは優秀だよな」
「・・・・・まぁ、表向きはね」
「じゃ〜誰連れて行こうかなぁ♪杏ちゃんと鈴ちゃんどっちがい〜い?」
「希望は鈴花だな、あいつ料理上手いから!」
「蒼ちゃん・・・食い意地張りすぎだから!」
「いいだろ別に飯は上手いほうがいい」
「鈴ちゃんなら〜青龍からは白夜君連れてきてよね♪」
桃華は鈴花と白夜をくっ付けたいのだ。
控えめな性格の人族の少女 鈴花、無口で無表情で常に冷静な天人の白夜。
お膳立てしなければ動けない二人なのだ。桃華はお膳立てが大好きだ。
「朱玉ちゃんのところは藍君?」
「うん、その予定。藍秀は実戦力になるから」
「そうだよねぇ、藍君って細くて弱く見えるけど戦闘力高いよね」
「戦闘力って言うより・・・あいつは暗殺が得意なんだろ」
「充分戦闘力じゃない!」
また、蒼鬼と桃華の夫婦漫才が始まった。
それを見て朱玉は苦笑する。
藍秀を気に入っている桃華と苦手だと思っている蒼鬼では意見が合わない。
大方の方針と対策をまとめた朱玉達は宿屋へ移動することにした。
手続きはもちろんイエンマオがする。
「朱玉ちゃん、私達は先に行ってるねぇ〜♪」
桃華と蒼鬼を見送った朱玉はイエンマオの待つ会議室に戻っていく。
その表情に笑みはなくルビーの瞳は鋭さを纏っていた。